2019.09/09(Mon)
【ネタバレあり】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』に出てきたお花を見てみよう
【!】本稿には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』のネタバレが含まれます。【!】
ご覧になられる場合は、本編視聴後を強く勧めます。
これは、2回目以降の視聴時の解像度を上げるための、作中に登場するお花の話をメインとした、個人的解釈を含む園芸オタクの独り言です。
合わせてどうぞ:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に出てきたお花を見に行こう
■ 白椿の牢獄
本作は二部構成の外伝。
これまでのヴァイオレット視点ではなく、イザベラ・ヨーク(エイミー・バートレット)とテイラー・バートレットの二人の物語であり、ヴァイオレットはその二人を繋ぐ存在として描かれています。
前半のお話は、「彼女の家庭教師をしてほしい」という王家からの依頼により、ヴァイオレットが良家の子女のみが通える全寮制の女学校に通うイザベラ・ヨークを訪ねるところから始まります。
この前半の舞台となる全寮制の女学校内の描写には、いたるところに白い椿が登場します。
○ 椿(Camellia japonica)
よくサザンカと間違われる、ツバキ科・ツバキ/カメリア属のお花。
サザンカとは葉っぱや子房(簡単に言うと、お花の真ん中あたりにあるもののこと)をよく見比べれば、遠目からでもわりと簡単に見分けられます。
公園や街中でたくさん見かけることができるので、無意識に何度も目にしている方も多いと思います。
そんな椿の花言葉は、基本的には「控えめな優しさ」や「控えめな美」等ですが、正確には花の色によって微妙に異なります。
赤系統の椿はこのベースとさほど変わらず、「謙虚な優しさ」や「気取らない美しさ」等の言葉が当てはめられますが、この女学校で度々登場する白い椿だけは違います。
前述の控えめとは打って変わり、「完全なる/汚れ無き美しさ」や「申し分のない/至上の魅力」等、とても強い最上位の意味合いを持たせられています。
その白い椿は、この女性の学び場を出た人はみな「後に地位ある人間になるか、そういった地位の者に嫁ぐ」ということからもわかるように、高い壁で隔絶されたこの女学校に入学し、学ぶ彼女らが完璧な美しさや立ち振る舞いを身につけ、地位ある人間を目指す・目指せさせられることを象徴しているように感じられます。
また、いたるところに自然に“咲く”のではなく、たとえば食事をする場であったり、舞踏を披露する場に“飾られる”形で配置されたそれは、“何”を学び完璧にするかを印象づけるとともに、さながらこの牢獄の監視員のようにも映ります。
しかし、そんな呪縛のように配置された白い椿も、最後の舞踏会では身につけるものとして登場します。
まるでそれは、彼女たちが「完全なる/汚れ無き美しさ」や「申し分のない/至上の魅力」を有する存在に成長した勲章のように──。
■ 春を告げる雪解けの花
はじめのうちのイザベラは「教育に関する必要最低限の会話以外はしない」と言い放ち、さらには騎士のような完璧な振る舞いを見せるヴァイオレットの姿と己を比較してしまい、ヴァイオレットを拒絶します。
しかし、少しずつヴァイオレットと言葉を交わしていくにつれて、ヴァイオレットという人間を知り、“普通に/友達として接すること”を望むようになります。
ちょうどその友達として過ごす様々な場面が映し出されるタイミングで、タイムラプスのように時間が経過していく演出のなかにその花は現れます。
○ スノードロップ(Galanthus)
ヒガンバナ科ガランサス属のお花。
秋植え球根のひとつで、白くとても可愛らしい下向きの花を咲かせます。
中にはハートマークを逆さにしたような模様もあり、本当にかわいくておすすめです。
秋になると5~6個入りの球根が一般流通し、わりとどこででも買うことができ、ベースさせしっかり作ってあげれば植えっぱなしで咲かせることができるのでぜひお試しください。
私も昨秋から今冬にかけて実際に鉢植えで育てましたが、本当にかわいくて素敵なお花で、お気に入りのお花の一つになりました。
(球根ガチャはだいたい5球あったら2,3球開花すればいい方なので、全部咲かなくても泣かないでね)
本作に出てくるスノードロップですが、これは花言葉がどうといった使われ方ではなく、花の特性を活かした、時間の経過と気持ちの変化を効果的に表すための舞台装置として描写されていると感じました。
このスノードロップというお花は、冬の終わりから春先にかけて花を咲かせ、「春を告げる花」として知られています。
ヴァイオレットがイザベラの元に来てから舞踏会までの3ヶ月間があっという間に過ぎていったこと、打ち解けてからの時間の速さがスノードロップの芽が伸び、つぼみをつけ開花するまでのタイムラプス表現にあるように思えます。
ちなみに、スノードロップのお花は球根から育て始めた場合、開花するまでに(個体差はありますが)おおよそ3ヶ月ほどの時間がかかりますので、作中の3ヶ月の教育期間という時間とも一致します。
また、スノードロップは氷の季節が終わり、春の足音が聞こえ始める時期に開花することから、イザベラの凍った心がヴァイオレットという存在によって次第に溶けてゆく様も同時に表し、徐々に心と世界が暖かくなるシーンをスノードロップという花が彩っている……そんな風にも見えます。
■ 相反する言葉が彩る物語
そんな前半のラストシーン、孤児院にいるテイラーにベネディクトがエイミーからの手紙を届けにくる場面で、ある花が画面に映ります。
○ シロツメクサ(Trifolium repens)
シロツメクサ(白詰草)はマメ科シャジクソウ属の多年草。
この名ではあまり馴染みがないかもしれませんが、「クローバー」と言えばわかる人も多いのではないでしょうか。
かの有名なクローバーの葉というのは、このシロツメクサの葉のことで、そこから長く伸びた花茎の先に白くて丸い花を咲かせます。
ちなみに、クローバーとよく間違われる花(というか葉)のひとつに「カタバミ」があります。
クローバーの葉だと思っていたものが実はカタバミだった……ということが非常に多いです。
見分け方や詳細は長くなるので割愛しますが、もしご興味があれば「クローバー カタバミ」などで検索してみてください。
そんなシロツメクサの花言葉は、「幸運」や「幸せ」など。
この「幸せ」は作中に様々な気持ちや形で存在していますが、ベネディクトが手紙を届けにきた場面でこの花が映るというところに着目すると、後にテイラーも語るように、郵便配達人のベネディクトが幸せ(手紙)を運びにきたことを象徴している、ように感じられます。
また、この花の描写には更なる意味が込められていると思いました。
それはシロツメクサが持つ、怖い花言葉「復讐」にあります。
捨てられた子供の末路はみんな不幸になる、そんな摂理に反してテイラーを「幸せ」にする、それがこの不条理な世に対する「復讐」……エイミーはそう言って、母親に捨てられたテイラーを拾い、妹として共に暮らします。
やがてやってくる別離の時。
テイラーのことを愛していたからこそ捨てた過去と名前、そしてその選択/復讐が彼女に与えた幸せの場所……そこに咲くはシロツメクサ。
「幸せ」と「復讐」。
本来であれば相反する意味の言葉ですが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』という物語においては寄り添いあうものでもあります。
このシロツメクサという花は、本作の物語を語る上で避けては通れない花のひとつでもあると感じました。
■ 梨の礫、されど名を呼べば絆は永遠
後半では戦争から4年後の世界を舞台に、ベネディクト・ブルーとテイラー・バートレットを軸とした物語が展開されていきます。
終盤のベネディクトがテイラーからの手紙をイザベラに渡す場所までは、わかりやすいところだと電波塔を気にしていたお婆ちゃんの部屋にあるアンスリウムくらいで、特にこれといって花は登場しませんが、その最後のシーンはムクゲ等の非常に多くの花で彩られています。
最後に紹介するお花は、「バートレット」。
この物語すべてを通して、エイミーとテイラーの名前として用いられた「バートレット」。
これにも深い意味が込められていると思いました。
○ バートレット(Bartlett)
バートレットとはつまりは西洋梨のことで、白い桜のような花を咲かせます。
梨なので、お花というよりは果物としての印象が強いですが、梨にも花言葉はあり、それはズバリ「愛情」です。
愛ゆえに名も過去も捨て未来を託した、そんな姉妹の愛を象徴するにふさわしい花であると言えるでしょう。
また、梨を使った言い回しのひとつに「梨の礫(なしのつぶて)」という言葉があります。
その意味は「便りを出しても、先方からさっぱり音沙汰のないこと」。
まさに、今回の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』、そのすべてを表していると言っても過言ではないでしょう。
……これについては正直こじつけ感があるとは思いますが、仮にここまで考えられていたとしたら、本当によくできた愛と手紙の物語であるなと、思わず空を仰いでしまいます……。
そして最後のエンドロールでクレジットされる、今回のメインである二人の名前は揃って「エイミー・バートレット」「テイラー・バートレット」で、バートレット姉妹として流れてゆきます。
美しい、あまりにも美しい。
■ 決して解けることのない三つ編みの物語
最後に少しお花以外の話を。
本作で最も印象的な描写として、三つ編み(髪型)があります。いいよね、三つ編み。
イザベラとテイラーの両者が三つ編みをしている、ヴァイオレットが結ってあげるのはもちろん、後半でヴァイオレットが髪を結っているのを見て、テイラーが自分もやってみようとするがうまくいかないという場面でヴァイオレットが言う「2つでは解(ほど)けてしまうが、3つで編み込めば解(ほど)けない」というセリフなど、それは随所に出てきます。
このように本作には様々な場面で“3つのものを編み込む”ことで変化していく感情や世界、人間模様が描かれています。
大貴族によって引き裂かれてしまったエイミーとテイラーの絆や想いは、やがてヴァイオレットという第三の存在が編み込まれることで再び繋がれ、それは決して解けることのないものとなる。
捨ててしまった「エイミー・バートレット」という名と過去、代わりに与えられた「テイラー・バートレット」の未来、それを今を生きるヴァイオレットが手紙という愛によって、最後はバートレット姉妹として繋ぐ。
エイミーとの思い出(過去)がほとんど思い出せない今/現在のテイラーだが、ヴァイオレットによって代筆されベネディクトによって届けられた手紙によって、郵便配達人になり今度は自分で自分の手紙をイザベラに届けるという未来を目指す。
このように、エイミーとテイラーとヴァイオレット、過去と現在と未来……そういった様々な“3つのものを編み込む”ことで、かつて解けてしまったものを決して解けることのない確かなものへと変化させる。
これはそんな、三つ編みの物語なのです。
というわけで、ウワァーーーって書いていたら思った以上に長くなってしまいましたが、TVシリーズ同様に作中に登場する花をメインに、ちょっとした解説も交えて書いてみました。
本稿が外伝を二度三度と見た時の解像度向上のお役に立てれば幸いです。
今回は外伝ということで、これまでのようなヴァイオレット視点の物語ではありませんが、ヴァイオレットの成長なくしてこの二人を再び編み/繋ぎ合わせることはできませんでした。
やはりこれも、確かにヴァイオレットの物語でもあるのですね。
見れば見るほど発見があり、愛を知ることができる。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』はそんな美しい作品です。
次回の劇場作品が無事に公開されることをいのりつつ、私もまたこの外伝を見に行きたいと思います。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』
ありがとうございました。
ご覧になられる場合は、本編視聴後を強く勧めます。
これは、2回目以降の視聴時の解像度を上げるための、作中に登場するお花の話をメインとした、個人的解釈を含む園芸オタクの独り言です。
合わせてどうぞ:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に出てきたお花を見に行こう
【More・・・】
■ 白椿の牢獄
本作は二部構成の外伝。
これまでのヴァイオレット視点ではなく、イザベラ・ヨーク(エイミー・バートレット)とテイラー・バートレットの二人の物語であり、ヴァイオレットはその二人を繋ぐ存在として描かれています。
前半のお話は、「彼女の家庭教師をしてほしい」という王家からの依頼により、ヴァイオレットが良家の子女のみが通える全寮制の女学校に通うイザベラ・ヨークを訪ねるところから始まります。
この前半の舞台となる全寮制の女学校内の描写には、いたるところに白い椿が登場します。
○ 椿(Camellia japonica)
よくサザンカと間違われる、ツバキ科・ツバキ/カメリア属のお花。
サザンカとは葉っぱや子房(簡単に言うと、お花の真ん中あたりにあるもののこと)をよく見比べれば、遠目からでもわりと簡単に見分けられます。
公園や街中でたくさん見かけることができるので、無意識に何度も目にしている方も多いと思います。
そんな椿の花言葉は、基本的には「控えめな優しさ」や「控えめな美」等ですが、正確には花の色によって微妙に異なります。
赤系統の椿はこのベースとさほど変わらず、「謙虚な優しさ」や「気取らない美しさ」等の言葉が当てはめられますが、この女学校で度々登場する白い椿だけは違います。
前述の控えめとは打って変わり、「完全なる/汚れ無き美しさ」や「申し分のない/至上の魅力」等、とても強い最上位の意味合いを持たせられています。
その白い椿は、この女性の学び場を出た人はみな「後に地位ある人間になるか、そういった地位の者に嫁ぐ」ということからもわかるように、高い壁で隔絶されたこの女学校に入学し、学ぶ彼女らが完璧な美しさや立ち振る舞いを身につけ、地位ある人間を目指す・目指せさせられることを象徴しているように感じられます。
また、いたるところに自然に“咲く”のではなく、たとえば食事をする場であったり、舞踏を披露する場に“飾られる”形で配置されたそれは、“何”を学び完璧にするかを印象づけるとともに、さながらこの牢獄の監視員のようにも映ります。
しかし、そんな呪縛のように配置された白い椿も、最後の舞踏会では身につけるものとして登場します。
まるでそれは、彼女たちが「完全なる/汚れ無き美しさ」や「申し分のない/至上の魅力」を有する存在に成長した勲章のように──。
■ 春を告げる雪解けの花
はじめのうちのイザベラは「教育に関する必要最低限の会話以外はしない」と言い放ち、さらには騎士のような完璧な振る舞いを見せるヴァイオレットの姿と己を比較してしまい、ヴァイオレットを拒絶します。
しかし、少しずつヴァイオレットと言葉を交わしていくにつれて、ヴァイオレットという人間を知り、“普通に/友達として接すること”を望むようになります。
ちょうどその友達として過ごす様々な場面が映し出されるタイミングで、タイムラプスのように時間が経過していく演出のなかにその花は現れます。
○ スノードロップ(Galanthus)
ヒガンバナ科ガランサス属のお花。
秋植え球根のひとつで、白くとても可愛らしい下向きの花を咲かせます。
中にはハートマークを逆さにしたような模様もあり、本当にかわいくておすすめです。
秋になると5~6個入りの球根が一般流通し、わりとどこででも買うことができ、ベースさせしっかり作ってあげれば植えっぱなしで咲かせることができるのでぜひお試しください。
私も昨秋から今冬にかけて実際に鉢植えで育てましたが、本当にかわいくて素敵なお花で、お気に入りのお花の一つになりました。
(球根ガチャはだいたい5球あったら2,3球開花すればいい方なので、全部咲かなくても泣かないでね)
本作に出てくるスノードロップですが、これは花言葉がどうといった使われ方ではなく、花の特性を活かした、時間の経過と気持ちの変化を効果的に表すための舞台装置として描写されていると感じました。
このスノードロップというお花は、冬の終わりから春先にかけて花を咲かせ、「春を告げる花」として知られています。
ヴァイオレットがイザベラの元に来てから舞踏会までの3ヶ月間があっという間に過ぎていったこと、打ち解けてからの時間の速さがスノードロップの芽が伸び、つぼみをつけ開花するまでのタイムラプス表現にあるように思えます。
ちなみに、スノードロップのお花は球根から育て始めた場合、開花するまでに(個体差はありますが)おおよそ3ヶ月ほどの時間がかかりますので、作中の3ヶ月の教育期間という時間とも一致します。
また、スノードロップは氷の季節が終わり、春の足音が聞こえ始める時期に開花することから、イザベラの凍った心がヴァイオレットという存在によって次第に溶けてゆく様も同時に表し、徐々に心と世界が暖かくなるシーンをスノードロップという花が彩っている……そんな風にも見えます。
■ 相反する言葉が彩る物語
そんな前半のラストシーン、孤児院にいるテイラーにベネディクトがエイミーからの手紙を届けにくる場面で、ある花が画面に映ります。
○ シロツメクサ(Trifolium repens)
シロツメクサ(白詰草)はマメ科シャジクソウ属の多年草。
この名ではあまり馴染みがないかもしれませんが、「クローバー」と言えばわかる人も多いのではないでしょうか。
かの有名なクローバーの葉というのは、このシロツメクサの葉のことで、そこから長く伸びた花茎の先に白くて丸い花を咲かせます。
ちなみに、クローバーとよく間違われる花(というか葉)のひとつに「カタバミ」があります。
クローバーの葉だと思っていたものが実はカタバミだった……ということが非常に多いです。
見分け方や詳細は長くなるので割愛しますが、もしご興味があれば「クローバー カタバミ」などで検索してみてください。
そんなシロツメクサの花言葉は、「幸運」や「幸せ」など。
この「幸せ」は作中に様々な気持ちや形で存在していますが、ベネディクトが手紙を届けにきた場面でこの花が映るというところに着目すると、後にテイラーも語るように、郵便配達人のベネディクトが幸せ(手紙)を運びにきたことを象徴している、ように感じられます。
また、この花の描写には更なる意味が込められていると思いました。
それはシロツメクサが持つ、怖い花言葉「復讐」にあります。
捨てられた子供の末路はみんな不幸になる、そんな摂理に反してテイラーを「幸せ」にする、それがこの不条理な世に対する「復讐」……エイミーはそう言って、母親に捨てられたテイラーを拾い、妹として共に暮らします。
やがてやってくる別離の時。
テイラーのことを愛していたからこそ捨てた過去と名前、そしてその選択/復讐が彼女に与えた幸せの場所……そこに咲くはシロツメクサ。
「幸せ」と「復讐」。
本来であれば相反する意味の言葉ですが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』という物語においては寄り添いあうものでもあります。
このシロツメクサという花は、本作の物語を語る上で避けては通れない花のひとつでもあると感じました。
■ 梨の礫、されど名を呼べば絆は永遠
後半では戦争から4年後の世界を舞台に、ベネディクト・ブルーとテイラー・バートレットを軸とした物語が展開されていきます。
終盤のベネディクトがテイラーからの手紙をイザベラに渡す場所までは、わかりやすいところだと電波塔を気にしていたお婆ちゃんの部屋にあるアンスリウムくらいで、特にこれといって花は登場しませんが、その最後のシーンはムクゲ等の非常に多くの花で彩られています。
最後に紹介するお花は、「バートレット」。
この物語すべてを通して、エイミーとテイラーの名前として用いられた「バートレット」。
これにも深い意味が込められていると思いました。
○ バートレット(Bartlett)
バートレットとはつまりは西洋梨のことで、白い桜のような花を咲かせます。
梨なので、お花というよりは果物としての印象が強いですが、梨にも花言葉はあり、それはズバリ「愛情」です。
愛ゆえに名も過去も捨て未来を託した、そんな姉妹の愛を象徴するにふさわしい花であると言えるでしょう。
また、梨を使った言い回しのひとつに「梨の礫(なしのつぶて)」という言葉があります。
その意味は「便りを出しても、先方からさっぱり音沙汰のないこと」。
まさに、今回の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』、そのすべてを表していると言っても過言ではないでしょう。
……これについては正直こじつけ感があるとは思いますが、仮にここまで考えられていたとしたら、本当によくできた愛と手紙の物語であるなと、思わず空を仰いでしまいます……。
そして最後のエンドロールでクレジットされる、今回のメインである二人の名前は揃って「エイミー・バートレット」「テイラー・バートレット」で、バートレット姉妹として流れてゆきます。
美しい、あまりにも美しい。
■ 決して解けることのない三つ編みの物語
最後に少しお花以外の話を。
本作で最も印象的な描写として、三つ編み(髪型)があります。いいよね、三つ編み。
イザベラとテイラーの両者が三つ編みをしている、ヴァイオレットが結ってあげるのはもちろん、後半でヴァイオレットが髪を結っているのを見て、テイラーが自分もやってみようとするがうまくいかないという場面でヴァイオレットが言う「2つでは解(ほど)けてしまうが、3つで編み込めば解(ほど)けない」というセリフなど、それは随所に出てきます。
このように本作には様々な場面で“3つのものを編み込む”ことで変化していく感情や世界、人間模様が描かれています。
大貴族によって引き裂かれてしまったエイミーとテイラーの絆や想いは、やがてヴァイオレットという第三の存在が編み込まれることで再び繋がれ、それは決して解けることのないものとなる。
捨ててしまった「エイミー・バートレット」という名と過去、代わりに与えられた「テイラー・バートレット」の未来、それを今を生きるヴァイオレットが手紙という愛によって、最後はバートレット姉妹として繋ぐ。
エイミーとの思い出(過去)がほとんど思い出せない今/現在のテイラーだが、ヴァイオレットによって代筆されベネディクトによって届けられた手紙によって、郵便配達人になり今度は自分で自分の手紙をイザベラに届けるという未来を目指す。
このように、エイミーとテイラーとヴァイオレット、過去と現在と未来……そういった様々な“3つのものを編み込む”ことで、かつて解けてしまったものを決して解けることのない確かなものへと変化させる。
これはそんな、三つ編みの物語なのです。
というわけで、ウワァーーーって書いていたら思った以上に長くなってしまいましたが、TVシリーズ同様に作中に登場する花をメインに、ちょっとした解説も交えて書いてみました。
本稿が外伝を二度三度と見た時の解像度向上のお役に立てれば幸いです。
今回は外伝ということで、これまでのようなヴァイオレット視点の物語ではありませんが、ヴァイオレットの成長なくしてこの二人を再び編み/繋ぎ合わせることはできませんでした。
やはりこれも、確かにヴァイオレットの物語でもあるのですね。
見れば見るほど発見があり、愛を知ることができる。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』はそんな美しい作品です。
次回の劇場作品が無事に公開されることをいのりつつ、私もまたこの外伝を見に行きたいと思います。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』
ありがとうございました。
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
| BLOGTOP |